国際ドキュメンタリー・フェスティバル・アムステルダム(IDFA)2019参加

水野大二郎先生との共同監督作品“Transition”が、国際ドキュメンタリー・フェスティバル・アムステルダム(IDFA)のコンペティション部門(ショートドキュメンタリー)に入選したため、IDFAからの招待で11月23日から28日までアムステルダムに滞在し、本作のワールドプレミア上映に立ち会いました。水野先生も行けたら良かったですが、水野先生はこのタイミングでの海外行きは難しく、代わりに私が一人で行かせてもらうことになりました。

アムステルダム訪問は、11年ぶり2度目。前回は夫が国際会議で発表するのに同行し、自分はのんびり観光していただけだったのに対して、今回は、共同監督作品の上映のためだったので、楽しみ以上に緊張感が大きかったです。

IDFAが手配してくれたVolkshotelは、かつて新聞社の本部だった建物をリノベーションしてつくられたこじゃれたホテル。1階はカフェ兼コワーキングスペースで、滞在中通りがかると、常に若い人たちがおしゃべりや仕事に打ち込んでいる姿が見られました。部屋はこじんまりとしたつくりながら、数日間の滞在にはじゅうぶんな快適な空間。場所は中央駅から地下鉄で数分、地下鉄の駅からもすぐなので、どこへ行くにも大変便利でした。滞在中はGVB Multi day ticket(バス、地下鉄、トラムが乗り放題になるチケット)を使って、気軽に動き回ることができました。

アムステルダムに到着してすぐに、街のあちこちでIDFAのポスターや旗を見かけました。IDFAが、毎年10万人もの観客が訪れる世界最大級のドキュメンタリー映画祭の一つであり、アムステルダムという都市にとっても重要なイベントなのだということを実感しました。私の滞在中、“Transition”の上映は2回。両日とも上映の後にモデレーターの進行のもと、観客からの質問に答えるQ&Aセッションを行いました。他の作品では、監督、プロデューサー、宣伝担当など、チームから複数のメンバーがIDFAに参加し上映に立ち会っていましたが、私たちはそもそも水野先生と私だけで始めたプロジェクトで、今回参加できたのは私一人。初めての映画祭で勝手がわからなかったこともあり、緊張してパニックになったらどうしようと事前にIDFAのスタッフに相談したら、通訳の国森潮音さんが来てくださることに。潮音さんのおかげで安心して、2回のQ&Aセッションを実施できました。

行くまでは完全に「アウェー」でどうしようかと思っていましたが、初回には水野先生のロンドンでの大学院時代の仲間たちと日本の映画配給の会社サニーフィルムの有田さんが来てくれ、2回目にはたまたま同時期にヨーロッパ旅行をしていた私の大学院の仲間なっちゃんが駆けつけてくれ、心強かったです。他の作品とのセット上映で、観客もまあまあの入りでした。

Q&Aセッションは、モデレーターや観客からの質問に答えることで、あらためて自分たちの作品をとらえなおす機会になりました。他作品のQ&Aセッションもいくつか見ましたが、作品づくりはどのようにしてはじまったのか、監督はどのように作品を位置づけているのか、監督と作品の中に登場する人びととはどのような関係性で、彼や彼女は今どうしているのかといったことがよく話題になっていました。自分たちの作品だけでなく他の作品のQ&Aセッションを見て、勉強になることがたくさんありました。

11月27日の夜には盛大な授賞式が行われました。私たちの“Transition”は、入選までで受賞はなかったですが、授賞式に参加できて、各賞の審査員からの講評と受賞者のスピーチを聞けただけで幸運だったと感じるような場でした。私たちの作品が入選したショートドキュメンタリー部門の審査員の講評の中の、以下のことばを、帰国してからも反芻しています。

Why so shy? You have cameras! The jury suggests that these filmmakers trust more in cinema and the image as a medium for exploring and understanding the world, and exploit its capacities with more fearlessness and abandon. These lives are worth that risk. (Jury report: IDFA Competition for Short Documentary 2019

アムステルダム滞在は5泊と短く、ほぼIDFA一色でしたが、行きたいと思っていたいくつかの美術館・博物館に行くことができ満足。特に良かったのは、人類学博物館Tropenmuseum の〈WHAT A GENDERFUL WORLD〉と〈THINGS THAT MATTER〉という展覧会。今後の自分の研究のアプローチや発表の仕方を考えるうえで、参考になることがたくさんありました。

たったの5泊でしたが、ちょっとした留学をしたぐらいの刺激と出会いに満ちた時間でした。アムステルダムに、そしてIDFAにまた来たい。この貴重な機会を与えてくれたIDFA、水野先生、送り出してくれた家族に感謝。

11月30日(土)京都女子大学の公開講座にて『移動する「家族」』上映会

京都女子大学の教授で家族社会学が専門の嘉本伊都子先生の企画で、私の研究作品である『移動する「家族」』の上映を含めた公開講座が開催されます。

日時 11月30日(土)13:30~17:00
場所 京都女子大学 図書館交流の床 1階ホール
詳細はこちら

嘉本先生とは、2018年7月21日に明治学院大学白金キャンパスで開催された、明治学院大学心理学部付属研究所特別研究プロジェクト「心理臨床センターにおけるグローバル化および内なる国際化に関する探索的研究」主催の『移動する「家族」』上映会がきっかけで出会いました。嘉本先生は上映会でコメンテーターとして研究についてコメントやアドバイスをしてくださいましたが、それ以来、色々とお世話になっています。
これまで全国46箇所で上映会を開催しましたが、京都は初めてなので楽しみです。

“Transition” has been selected for the IDFA Competition for Short Documentary

“Transition”, a documentary film co-directed by me and Daijiro Mizuno, has been selected for the IDFA Competition for Short Documentary of the 32nd edition of International Documentary Film Festival Amsterdam!
IDFA: https://www.idfa.nl/en/film/f8b0c22a-2ed7-4ab4-83f9-9857c83e9f3e/transition

水野大二郎先生との共同監督作品“Transition”が、国際ドキュメンタリー・フェスティバル・アムステルダム(IDFA)のコンペティション部門(ショートドキュメンタリー)に入選しました。11月にアムステルダムにて、同部門で選ばれた他の11作品とともにワールドプレミア上映されさらに審査されます。
IDFA: https://www.idfa.nl/en/film/f8b0c22a-2ed7-4ab4-83f9-9857c83e9f3e/transition

このプロジェクトは、昨年、私の博士研究が最終段階を迎えた頃に、副査として指導してくださっていた水野先生から提案いただいたことで始まりました。私は「移動」と「家族」をテーマに研究をしてきましたが、水野先生から、自分が今経験していることはまさに「移動」と「家族」をめぐるエクストリームなケースだから、新たな研究対象にしてみてはどうかというお話がありました。その時、水野先生が、妻みえさんの闘病を支えながら、当時1歳になったばかりのてらすくんの育児と、大学での仕事をなんとかして成り立たせるために奔走している状況を知りました。

自分自身が移動する、家族を移動させる、ものやメッセージなどを移動させる。困難な状況でもよりよく生きるために、みえさんの闘病が始まってからの2年間、多様な「移動(モビリティーズ)」を組み合わせる試行錯誤をしながら生き抜いてきたプロセスを、水野先生は自分のiPhoneでほぼ毎日記録し続けました。私は後半の1年間、毎週のペースで水野先生にインタビューを行い、そこでその週の日記とiPhoneで撮影された写真や動画を見せてもらい、水野先生の「生活世界」を理解することを試みました。“Transition”は、2年間の記録を、この1年間のインタビューによる理解にもとづいて編集して制作した作品です。私にとってこのドキュメンタリーは4作目ですが、自分が撮影した写真や動画をほとんど使わないで制作するのは初めてのことですし、「語り」がない作品も初めてです。調査者として自らを調査し続けた水野先生による記録が、この作品を成り立たせています。
制作の最終段階では、 加藤文俊先生にアドバイザーとして参加していただきました。加藤先生のもとで研究するようになってからずっと‘social bonding(社会的なつながり)’について考えてきましたが、その基盤は‘being part of each other’s life transitions’なのではないかと、このプロジェクトを通してあらためて実感しています。水野先生、加藤先生と、このあと、2年間の記録と向き合いながら、論文も書く予定です。

この作品が、何よりも、みえさんの最愛の存在であるてらすくんにとって5年後、10年後に意味のあるものになっていることを心から願います。

11月のアムステルダムでのワールドプレミア上映以降、日本でもいろいろなかたちで上映の機会を探ると思うのでどこかでご覧いただければ幸いです。

プロジェクトの詳細は:https://medium.com/documentary-film-transition